黒糖(キビ)を主原料とする焼酎をウリにするバーの店主であり、県内外で楽曲提供・バンド演奏に精力的な活動を続ける音楽家でもあり、そして一児の父親でもある、清水健太さん。
大切にしているのは、お似合いのハット……ではなく、お客様への”ワクワク”の提供、です。
熊本市内の真ん中、新市街の路地裏にちょうど1ヶ月前にオープンしたばかり、彼がオーナーを務める音楽酒場、「きびきび」を訪ねました。
清水 健太さん/路地裏音楽酒場「きびきび」店主・音楽家
取材日:2018年9月15日
ラテンの酒と音楽を路地裏で
熊本市内、下通商店街から西銀座通りに入って、どんどん進み……雑居ビルと雑居ビルの狭まれたところに、清水さんが経営する路地裏音楽酒場「きびきび」の入り口が構えています。店名が示す通り、きび(黒糖)を主原料とする焼酎をベースにしたドリンクを中心に提供しつつ、店内にはブラジルをはじめとする南米・ラテンの音楽を中心に、ジャズやソウル、ロックやポップスなどが流れています。
「もともと、ブラジルに代表されるラテンの音楽が大好き。なので、自分が出す店でも、ラテンを発祥とする、黒糖の酒をメインにしたいと考えていました。ご想像通り、店名も、その『きび』から来ています。このコンセプトは最初から決めていました。これ以外、私にはあり得ないですから(笑)。幸いなことに、熊本県内には似たようなコンセプトの店も少ないようなので、ラテンの酒と音楽を楽しむなら、ここだけ!と、認知されていってくれれば嬉しいですね」
「うちは黒糖焼酎をたくさん揃えているほか、『カシャーサ』という、ブラジルの酒も扱っています。カシャーサも、ブラジル産の黒糖の蒸留酒で、ソーダ割りがおすすめ。あと、カシャーサにライムと黒砂糖を混ぜたブラジルでは一般的なカクテル、『カイピリーニャ』は他店ではなかなか飲めない、レアな商品だと思います」
−ビギナーは、まず、「きびハイ」「マテハイ」という、基本メニューから?
「きびハイは黒糖焼酎『里の曙』のソーダ割りです。黒糖焼酎の世界の入り口かもしれません(笑)。マテは、南米産の”飲むサラダ”と言われるくらい、栄養価の高い茶葉として有名かと思いますが、それをアレンジしたマテハイもご賞味いただきたいですね。女性のお客様の1杯目として人気ですよ」
−正直言って、お店はお世辞にも、わかりやすい場所にあるとは言えません笑。でも、そんな物件をあえて気に入ったのも、清水さんならではのこだわりがあったようです。
「路地裏の、知る人ぞ知る、という場所に入っていくときって、誰もがワクワクすると思うんです。だからこそ、店のロケーションは奥まった路地裏を狙って探していました。プラスして、店内の雰囲気を明るく作り込めば、店に入った瞬間、路地裏とのギャップに、お客様はご入店時もあらためてワクワク感を持ってくださるはず。この決して広くない店には、実は2Fもあります。隠し部屋というか、天井の高いプライベートルームとしての扱いですね。こんな狭い店内に隠された2Fというシチュエーションも、お客様のワクワクを誘えるので(笑)、すべて、ここは私の狙い通りの空間です」
−おつまみメニューは、まだ開発途上。近いうちに、お店の名物にしたいおつまみを開発予定なんですって。
「ブラジルに”きび”と呼ばれる料理があるんです。牛ひき肉にきび粉を混ぜて肉団子状にして揚げ、辛味ソースを絡めて食べるもの。これを……うちの店で開発して、名物にできればと。直近の目標です。私が好きな南米・ブラジルの料理ですし、名前も、きび。うちの店のためにあるような料理ですから、他店には真似できない名物おつまみになると思うんです」
音楽家としての現状と、夢
−群馬県出身。学校卒業後はラテンバンド「coloridas(コロリダス)」を結成し、東京で約14年間、バンドメンバーとともに各地でライブ活動を展開。一方で、オーダーがあればテレビCMなどの楽曲製作も担うなど、音楽家として多彩な才能を発揮してきたようです。
現在も東京時代と同じように、熊本でライブ活動と楽曲製作、両方に活躍する、音楽家としても「プロ」。
「ありがたいことに、熊本に来てからも、ライブや楽曲製作の仕事を、東京をはじめ各地からいただいています。昔も今もですが、自分がステージに立って歌うのと、楽曲制作は半々くらいの割合です。どちらをメインにしたいか? 難しい質問ですね(笑)。両方があってこそ、自分の音楽活動なのだと思います」
−今のところ、バーを切り盛りするのは、清水さんお一人。お店は基本的には年中無休ながら、月に5〜6日程度の不定休があります。この日は大抵、清水さんが音楽活動でステージに立つ日。
「これからもバンド活動は可能な限り続けていきたいですね。店がもっともっと賑わうようになったら、バイトさんを増やして、私が音楽活動のときは店を任せるようにしていきたいとは思いますが、まだまだ、これからですね」
「せっかくご縁があって熊本に来たので、自分の音楽で、熊本のための、何か力になれれば最高です。たとえば、熊本を代表するようなCMの楽曲を作ったり、熊本発の全国に向けたステージで熊本の魅力を音楽で発信できたり。今の私の、夢の一つです」
バー経営と音楽の共通点
−清水さんが熊本に来たのは1年前。そのきっかけは……熊本県民の情熱に心を打たれたことがきっかけだったとか。
「妻の地元が熊本なので、以前から、ときどき熊本に来ていました。熊本に来るたび、街の作りや自然環境を気に入っていたこともありますが、熊本移住の一番のターニングポイントが、熊本地震の1ヶ月後(2016年5月)に、たまたま熊本でライブをすることになったとき。ちょうど、熊本復興に向けて、熊本県の方々が情熱を燃やしていたタイミングだったこともあって、県外から来た私たちのバンドを、本当に、熱烈に歓迎し、応援してくれたんです。本来なら、県外から来た私たちが熊本の皆様を勇気付けなくてはならないつもりで来たのですが……逆でした。そのときに、熊本の方々の情熱、あたたかさを身を持って実感しました。そのライブの2ヶ月ほど前に子供が生まれたこともあり、子育てをするには、東京よりも熊本の方が『断然良い』との確信を得ましたので、昨年、家族で熊本に移住してきました」
−バーの経営と音楽活動という、二足の草鞋。清水さんの今までも、これからも、「軸」は変わりません。
「東京時代からずっと感じていたのですが、今のような狭い店内のバーの経営と音楽のインディーズ活動って、私の中では非常に共通点が多いと思っているんです。両方とも、セルフマネージメントが求められる仕事。ブランディング、ファンづくり、情報発信……が欠かせず、そして、お客様に提供するのは、ワクワク感とリラクゼーションです。バーのカウンターの中でのコミュニケーションも、ステージ上でのライブパフォーマンスも、製作した楽曲を聞いていただいたときも、すべて、自分の創り出す個性で、お客様にご満足をいただいて、リピートを生んでいかなくてはなりません。ほら、バーも音楽も本質は一緒でしょう?」
「バーも音楽も、常に自分自身でお客様に気に入っていただける世界を創り出していく……楽しさもありながら、同時に、プレッシャーとの戦いです。実際、店にお客様が少ないときのソワソワ感って言ったら……とてもとても、スリリングです(笑)」
まとめ
「清水さん」よりも、「健太さん」と呼びたくなる、程よい脱力感(笑)を持っている健太さん。初対面でも話が弾んでしまうと思います。
しかし、油断ならないのが、路地裏に構えるバーにも音楽活動にも、彼の揺るぎない信念が隠されているところ。
バーの経営と音楽。清水さんは日々、「きびきび」とご自身の役割を切り替えながら、お客様の”ワクワク”を追求しています。
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