熊本の地元の人と会話をしていると、時々、不思議な方言を聞くことがあります。
「右さん行くと交差点が……」「この角を左さん行くと……」
右とか左という方向に対して「さん」付けされるんですね。
また、「北さん」や「西さん」などのように方角に対して使われることもあります。
若い人は使いませんが、年配の方と話すと出てくる方言です。
でも、単なる方向や方角を示す「右」や「左」、「北」、「南」と行った言葉にさん付けするのはちょっと不思議ですよね。
ということで、熊本の人はなぜ方向や方角を示す言葉に「さん」付けをするのか調べてみました!
現代の「さん」の使い方
「さん」付けは、みなさんも日常でよく使われているでしょう。
ただ、現代の「さん」は、話し言葉で誰かのことを指す際に、その人に対して敬意や親しみを表すために「○○さん」と名前の後につけて使います。
「〜様」や「〜殿」などと同様に敬称として使われています。
また、特定の人ではなく「父さん」「社長さん」と一般的な親族や役職名などに使われたり、「居酒屋さん」や「ラーメン屋さん」などのようにお店の種別や職種に対してつけることも多いです。
このように、現代の「さん」の使われ方は、何かに対して敬意や親しみを表して使われることが多いわけです。
一方、方向や方角に対して「さん」付けすることは、全国的にほとんどありません。
では、なぜ熊本の人は方向や方角に対しても「さん」付けするのでしょうか?
もともと方向を示す言葉として使われていた?
「さん」という敬称と似た言葉に「さま」があります。
「さん」よりもさらに相手を尊敬しているという意味で使用されることが多い言葉です。
「さま」という言葉を調べてみると、
実は平安時代から鎌倉時代までは
方向を意味する言葉
として使われていたそうです。
それが今のような敬称として使われるようになったのは室町時代以降とのこと。
[参考:夢ナビ:方言を通して日本語の歴史を知る]
それ以降「さま」は全国的に敬称として使われるようになっていったわけですが、それが熊本では方向や方角を示すものとして言い方を変えて残っていったようです。
最初は「〜さまに」でしたが、それが「〜さんに」、そして「さん」というふうに変化したのだとか。
熊本の人が使っている「さん」付けは鎌倉時代までの使い方が発祥だったんですね。
約700年前までの使われ方が現代にも残っているなんて面白いものです。
ちなみに、この「〜さまに」が発祥だと言われている方言は他にもあって、東北地方でよく使われる「東京さ行く」の「さ」は、この「さま」が残った形と言われています。
[参考:夢ナビ:方言を通して日本語の歴史を知る]
「ちゃん」付けもある!
熊本では「さん」付けだけではなく、実は「ちゃん」付けもあります。
「ちゃん」は、右・左・北・南といったはっきりした方向や方角ではなく、「あっち」「こっち」といった漠然とした方向を指し示す時に使われることが多いです。
具体的には、
「あっちゃん置いとけ!」(あっちに置いておきなさい)
「こっちゃん」(こっちに)
「どっちゃん」(どっちに)
という使い方をします。
ただ、「右ちゃん」「北ちゃん」という言い方はあまりしないです。
でも、なんだかかわいい方言ですね。
他県の方が旅行などで熊本を訪れた際はちょっとご注意を!
他県の人が旅行などで熊本に行った際に、地元の人にお店などへの行き方を聞くことがあるかもしれません。
その時に、熊本の人から「右さん行ったら……」とか「北さんに行くと……」と案内されることもあるでしょう。
また、あまりないかもしれませんが、「あっちゃん」「こっちゃん」という言葉も聞くかもしれません。
それを聞いて「誰のこと?」と思ってしまうかもしれませんが、人ではないのでご注意を!
今の若い人は使わず、熊本出身の年配の方が話すことが多い方言ですが、もし方向を尋ねた際に「右さん」「北さん」など回答された場合は、それらは方向や方角を表していると認識しましょう。
方言を調べてみると面白い!
この記事では、熊本の人が方向や方角に対して「さん」付けする理由を紹介してきましたが、この他にも熊本独特の方言はたくさんあります。
方言はその地域の歴史や風習などを感じさせるものがたくさんあります。
調べてみると、その時代背景などがわかって面白いものです。
また、歴史とまではいかないまでも、熊本に旅行などで訪れた際に、地元の人の会話を聞いて「ん、どういう意味?」と思う方言があるかもしれません。
そのときは、ぜひネットで調べてみるといいでしょう。
「そういう意味だったのか!」と面白い発見があったり、熊本の人に愛着がわいたりするかもしれませんよ!
この「くまきゅー」では以下のリンクから熊本弁を紹介しているので、気になる方言があったら調べてみてください!