熊本県内の各地域で活躍する地域おこし協力隊の紹介を通して、その地域の魅力を発信していきます。
多良木町の地域おこし協力隊、矢山隆広さんにお話を伺いました。
熊本人物キュレーション<地域おこし協力隊編>多良木町地域おこし協力隊「矢山 隆広」さん
多良木町とは
多良木町は、熊本県の南東部、九州山地に囲まれた球磨盆地にあり、町の中央を球磨川が流れています。
藩主・相良氏の700年という長きにわたる統治により、独自の文化が生まれ、歴史的建造物も多く残されています。
農山村交流施設(簡易宿泊施設)の「ブルートレインたらぎ」は、過去にブルートレインの愛称で親しまれていた寝台特急「はやぶさ」の客車を購入して、宿泊できるようにした施設です。
郷土品としては球磨焼酎が有名で、地理的表示(GI)の産地指定を受け、地名を冠とするブランドとして世界的に認められた焼酎です。多良木町には7つの蔵元があります。
地域おこし協力隊になったきっかけ
熊本県内に就職しスーパーでの勤務を経て、東京で働いていたのですが、熊本地震を機に地元・熊本に帰ることにしました。
東京での生活は地に足が着いていない感じだったので、このままこの生活を続けていても何も変わらないという気持ちがありました。食べ物などがどういった形でここまで届けられているのか知らない中、お金を払えばそれらが手に入る世界に、何か薄っぺらさを感じていたんです。だから、もっと地に足を着けた生活をするためにも、農業とか狩猟に関わる仕事がしたいと思っていました。
しかし、帰るにしても仕事をどうしようかと調べていたところ、都内に「ふるさと回帰支援センター」という施設があるのを知り、そこだと熊本の就職情報も分かるだろうということで行ってみたんです。そこで、担当していただいた方に、近々移住相談会があるので参加してみてはいかがですかと言われ、その移住相談会で協力隊の制度について初めて知りました。
そんな中、移住相談会でいろんなブースをまわっていると、2つの自治体から続けて多良木町を勧められ、それから多良木町の説明を聞きに行き、色々な事にチャレンジしやすい環境だなと感じ、その日のうちに即、多良木町の協力隊になることを決め、2017年8月から協力隊の活動を開始しました。
協力隊の活動内容
最初のミッションとして、道路の方に伸びている木や倒れると道を塞いでしまうような木を定期的に切って薪にすることをやっていました。それがきっかけで地域資源の利活用という視点が持てるようになったんです。それから地域をまわっていく中で、もみ殻や焼酎粕、剪定された枝、放置竹林など、利活用できそうな資源が他にいっぱいあることに気づき、それぞれの資源を利活用するための調査や実験をしていく内に、最終的に放置竹林の再生、伐採した竹の利活用というところにたどり着きました。今は竹をメインにやっていて、竹紙事業と竹の伐採事業をやっています。
私の協力隊としての期限は2020年の3月までなので、早く収入源になるものを作らなければということがありました。もみ殻や焼酎粕も調べていこうとは思っているんですが、時間もかかり、一人でやるのも難しいことが分かったので、一旦、それらは置いて、竹林整備に対する交付金が手厚い竹事業に取り掛かることにしました。竹の伐採事業は令和2年4月から団体を立ち上げる予定です。
協力隊の仕事をやる上で気を付けていることはありますか。
自分も良くて、取引している相手も良くて、地域も良くてという仕事がベストだと思っています。それは一貫してずっとこだわってますね。それがないと自分としても嫌ですし、そこを守ることを基本としてやっています。
普段の人間関係は苦手な方なんですが、仕事になるとスイッチが変わるんです。それはスーパーに勤務していた時に身についたんですね。スーパーのお客さんと接する時にスイッチを変えて柔らかい感じで接する方法を覚えたんです。それが、今も活きていると思います。
協力隊のやりがい・魅力
広い視野で地域を見られるというか、行政と民間の間みたいな感じのポジションで見られる、そういった独特のポジションで地域を見られるというところにもやりがいがありますね。
協力隊の皆さんに共通していると思うんですが、初めは行政との関わり方に戸惑いました。担当者の方と意見交換や相談をする中で、「薪に限らずいろんなことにチャレンジしてみたら」と言ってくださいまして、そこから視点が広がっていきました。
薪の仕事だけをしている時は、住民の方とのコミュニケーションがほぼなかったんです。協力隊はその地域外から来るので、外からの視点が大事だと思っていたんです。だから、あまり中にどっぷり浸かってしまうとよくないんじゃないかと、あえて距離を取ることで、外からの視点が保てると思っていたんです。
しかし、薪以外の事にもチャレンジするようになり、視点が広がっていくなかで、地域の住民の方との付き合いも多くなっていきました。そして、住民の方を知れば知るほど面白い人がたくさんいることに気づきました。町をどうにかしたいと思っている若い人たちがいっぱいいて、そういう人たちに会っていくうちにどんどん刺激を受けて、なんていい町なんだと思えるようになってきました。
住民の方々に対して苦労したことは1回もありません。本当に良い人ばかりです。皆さん可愛がってくれて、良くしてくれるんで、本当に恵まれていると思います。
メッセージ
多良木町のここを味わって欲しい、見て欲しいところはありますか。
町内にお肉屋さんがあるんですが、そこは猪の成体市場なんです。生きたままの猪などが市場に競り落とされる競り市が行われる場所です。こういうところは、たぶん日本で唯一か数カ所しかありません。多良木町は昔からジビエを食べるのが当たり前の文化としてあり、住民の方の中にはさばき方や料理の仕方が上手な方が多いです。逆に、自宅で食べるのが普通なのでお店で食べられるところは一つもないんです。そういった地元の人達とジビエ料理を食べるのもすごくいい経験だと思います。
多良木町の一番好きなところはどんなところですか。
やはり人ですね。それが多良木町を好きになったきっかけでもあります。町をなんとかしたいと思っている30、40代の人達が多く、そこにひかれました。個人的には、田舎ってどこも基本的に同じだと思ってるんです。空気がいい、景色がいい、人がいいという。そんななか、結局決め手になるのは人の縁だと思っています。
協力隊に興味がある人に向けて、何かメッセージはありますか。
協力隊に入る前に行政の担当者の方とのすり合わせをしっかりやっておいたほうがいいと思います。自治体によっては、購入したいものがあった時、書類を書いて提出しなければいけないところもあります。そういったところだと、すぐに購入したくても、1ヶ月後とかにやっと購入できるという事があると聞きます。活動期間が3年しかないなかで、そういうことをやっているとチャンスを逃してしまうこともあるんで、心構えを持つためにも本音で行政の担当者の方と話し合って欲しいなと思います。地域のことを調べるのも当然ですが、入る前に協力隊のことも行政の方に個人的に聞いておく、気になることは全部質問する感じで。また、その地域もしくは地域の周りにいるOBやOGにも聞いておいたほうがいいです。