熊本の高森町で早稲田大学生が復興とキャリア教育イベントを実施

はじめまして。

早稲田大学法学部4年、大隈塾U-18 代表の町田優衣です。

今回は、2019年8月に開催された高森町でのキャリア教育イベントについてのレポートをさせていただきます。

早稲田大学・大隈塾U-18 in 阿蘇

2019年の夏に高森町の高校生が、早稲田の大学生や社会人の方と一緒に、夢や未来について考える授業が実施されました。

これは、早稲田大学の講義である「たくましい知性を鍛える」(通称:大隈塾)の学生が企画する出張授業「大隈塾U-18」というプロジェクトであり、2年半前のプロジェクト以降全国各地で開催しており、熊本県でも熊本市内の高校を中心に500人以上の高校生に授業を届けています。

熊本で、そして阿蘇の高森町で、この授業を実施したいと提案させていただいたのは、2016年の熊本地震により多大なる被害を受け、復興に向けて尽力している熊本の方々に、高校生の夢を応援することで少しでも力になりたいと思ったからです。

そんな私たちに、高森町から「復興現場の見学」や、高森町の方との意見交換を行う「復興シンポジウム」、これらを通じて早稲田生が高森町に「政策提言」をするという貴重な機会をいただいたので、今回の【高森町×高森の高校生×早稲田大学の学生】の一連のイベントについて、レポートします!

復興現場見学〜復興シンポジウムについて

高森町役場の方に案内をしていただき、南阿蘇鉄道の復興現場、阿蘇大橋の様子などを見学させていただきました。

鉄橋の橋桁と線路が損傷している現場で、実際に震災前鉄道が走っており、名所となっていた橋の上にあがらせていただきました。

橋の上から見る景色は絶景で、南阿蘇鉄道ではここを通過する際に一度停車して景色を見てもらっていたとのこと。復旧後に今度はトロッコ電車からこの景色を堪能しにくることを心に決めました。

 

テレビなどでも度々目にしていた阿蘇大橋周辺の大規模な斜面崩落と、東海大学の阿蘇キャンパスが被害を受けたことにより一帯がゴーストタウンになっている様子を見学しました。

実際に被害を目の当たりにし、それに伴い、鉄道が一部しか動かせなかったり、道路が使えなかったり、地域の経済活動の一部を担っていた大学生がすっぽりいなくなったりと、生の声を聞くことで、今も強く震災の影響が残っていることを感じました。

一方で、南阿蘇鉄道の職員の方のお話や実際に工事が進んでいる様子から、復旧に向け着実に歩みを進めていることも感じられました。

その後、復興シンポジウムを、高森町観光交流センターにて開催し、事前の町内の告知もあり、大勢の高森町の町民の方に来ていただきました。

シンポジウムでは、阿蘇地域の経営者の方や行政の方と、早稲田大学の学生が、「防災」「観光」「定住」の3つのテーマについて意見交換を行いました。

登壇者は、高森町町長の草村さん、南阿蘇鉄道(高森町地域おこし協力隊)の染田さん、内牧温泉で旅館を経営している永田さん、黒川温泉事務局長の北山さん、そして早稲田の学生4名でした。

まず、早稲田の学生が東京から熊本地震を見た時に、どのように見えているかをお伝えしました。

震災直後は、報道機関を通じて、熊本城や阿蘇大橋などのインパクトのある映像を始めとし、震災の状況が伝えられていたものの、その後すぐに報道されなくなり、今となっては「過去のこと」になっている印象を受けていること。

しかし、実際に熊本に足を運び、まだ全然元通りにはなっていないこと、復興の真っ只中であることを感じ、報道で知りうる情報の少なさを、身を以て実感したことを伝えました。

次に、登壇者の方々から、それぞれの活動について、また震災前後でその活動がどのように変わったのかをお話ししていただきました。

民間の立場である永田さん、北山さんからは、温泉の地震による被害や風評被害について、どのように対応して、建て直してきたのかをお話しいただきました。行政の立場である草村町長からは、震災直後どのように動いて、今後の有事に対してどのように備えているのかをお話しいただきました。

草村町長からは、これからやるべきことについて、阿蘇が自然資本と文化資本の塊のような土地であるからこそ、この両資本をどのように経済資本に変えていくのかが最大の課題であり、取り組むべきことだとお話しされていました。

早稲田の学生は、目の前で見たこれら阿蘇の資本をどうしたら経済資本に変えられるのか、その方法を政策提言でどのように提示すればいいのかを考えながら質疑応答を行い、リーダーの育成や観光客の増加などについても意見を伺った上で、シンポジウムは終了しました。

シンポジウムでは、民間と行政がそれぞれの役割を自覚して、共に復興に向けて尽力していることを強く感じました。

また、高森町の町民の方も多く参加されており、復興に向けた取組や提案に町の方が強く興味をお持ちになっていました。

草村町長から、シンポジウムの中で「自助」と「共助」が大事というお話がありましたが、震災を通して高森町の住人の方自身が、この事を痛感し、自覚したからこそ、シンポジウムにたくさんの方に興味を持っていただけたのではないかと思います。

大隈塾U-18について

高森高校の約50名の生徒と一緒に、夢や未来について考える出張授業「大隈塾U-18」を実施しました

当初は、阿蘇中央高校、小国高校の生徒も高森高校に来てもらい、学校の枠を超えて交流する予定でしたが、台風の影響により高森高校の生徒のみでの実施となりました。

「大隈塾U-18」は3部構成の授業です。

第1部では、あまり会う機会がない広いフィールドで活躍している社会人の方の講義を聞きます。今回は、法律という武器を持ち、国内外で活躍してきた井上修さんを講師としてお呼びしました。

講義では、夢を持つことは選択肢があることの道標になるため重要であること、自分の責任で行動することが大切であるというメッセージを高校生に伝えられていました。

第2部では、自分の価値観やなりたい姿について考えるワークショップを行いました。

学年を跨いで5人ほどの班に分かれ、それぞれに大学生がつき、班の中で共有をしながら進めました。

自分自身について考えると同時に、班のメンバーや大学生の価値観に触れ、人によって価値観に違いがあることや、理想の自分像が異なることを感じてもらうことで、自分の人生について考える必要があること、そのために一歩踏み出してもらいたいというメッセージをプロジェクトメンバーから伝えました。

最後に、第3部では、大学生との交流会を行いました。受け入れてもらえるか不安でしたが、大学生の進路選択や大学生活、勉強法など、高校生からたくさん質問してもらい、大盛況の中、出張授業を終えることができました。

台風の影響で、3校合同で実施する予定が、高森高校のみでの実施となり、人数も当初の予定の1/4程度になってしまいましたが、大学生が高校生一人一人ときちんと向き合うことができ、とてもいい時間になりました。

また、今まで様々な高校で大隈塾U-18の授業を届けてきましたが、学年をまたいで班を組んだ中で、高森高校ほど上学年の生徒がリーダーシップと積極性を発揮していた学校はありませんでした。

これは、阿蘇の立地の影響なのか、震災が関係しているのか、教育において様々な取り組みをしている高森町だからなのか、理由はわかりません。

しかし、自分自身としっかり向き合い、周りの人の様子を見てリーダーシップを取っている高校生の様子を見て、この生徒たちがこれからの高森を支える安心感を感じました。

大隈塾U-18の授業が、今回受けてくれた高校生がこれから何かやりたいことに向かって踏み出す後押しになり、それが高森町のさらなる復興の力になれば嬉しいです。

高森町への政策提言について

高森町への政策提言は、上記のイベントを終えた3か月後の11月に、高森町役場にて町長を始めとする役場の方々にプレゼンテーションを行う形で提出しました。

政策提言も、政策提言と同様に「観光」「定住」「防災」の3つの観点から、熊本県外の立場から考えられる提言をまとめました。

高森町は、訪れて知った壮大な自然による文化資本、自然資本があり、都心部からの移住トレンドの需要に応える十分な魅力がある一方、少子高齢化・人口減少が進んでいる消滅可能性がある都市であり、町の機能維持のためにも生産人口を増やす必要がありました。

そこで、「観光」においては、千本桜で有名な高森峠とクラウドファンディングを組み合わせた提案や、阿蘇の広大な自然を免許合宿の際の運転経路にする提案等、実際にある自然資本と若者のニーズや流行を組み合わせた提案をしました。「定住」に関しては、都心の喧騒を避け自然豊かな場所への移住トレンド、働き方改革によるリモートワーク、移住の際の最初の心理的ハードル等に注目し、町全体のIT環境の整備や、短期間から移住を試すことができる住居、町のケーブルチャンネルと教育を連携して教育の透明化を図ることなどを提案しました。

「防災」に関しては、阿蘇地域での協力体制を整えること、高齢者への情報伝達、正常な危機感を持ってもらうために個人が緊急時に判断できる力を養うワークショップの開催などを提案しました。

政策提言を通じ、高森を訪れた際に目にしたもの以上に、たくさんの自然・文化資本があることを知り、また今東京で調べることができる以上にたくさんの魅力が高森にあることを確信しました。地域の外の立場だからこそ気付ける高森の魅力を提案することを求められていた反面、実際に高森を十分に見る時間がなかったこともあり、調べた情報と、シンポジウムで得た生の声、役場の方たちとのコミュニケーションから考えられる提案になりました。

地域の外の若者の立場から、これまで町として施行しているものに加え、新しい提案を行えるように考えていたのですが、実際に提案してみると既に検討されているものも多いことを実感しました。

まとめ

今回の一連のイベントを通じて、実際に足を運んでみること、現地の人とコミュニケーションをとることで、表面的に見ただけではわからないたくさんの高森町の魅力を知ることができました。

高森では、町長をはじめとした役場の方々、高森高校の高校生、先生、シンポジウムに登壇してくださった方、シンポジウムを聞きに来てくださった方、素敵な町民の方に出会うことができました。

みなさん、何のゆかりもない大学生に興味を持ってくださり、イベントに協力していただき、高森について、高森の教育について、色々教えていただきました。

壮大な阿蘇の自然に圧倒され惹かれたのはもちろんですが、何よりも町長を中心とし、様々な政策をパワフルに推し進めている自治体の姿を実際に見ることができ、高森高校のまっすぐな高校生と触れあい、メンバー一同高森町が大好きになりました。

訪れてみないとわからないことがたくさんあるし、実際に足を運べば、画面を通してでは知ることができなかったことを、身を以て知ることができるということを改めて感じました。

また、私たちは、高校生に可能性に蓋をせず、自分の未来にワクワクしてほしいと思いながら授業を届けていますが、シンポジウムや政策提言を通じて高森町にワクワクし続けていました。

もしかしたら、人も街も変わらないのかもしれないし、やり方次第で世の中輝くものはたくさんあるのかもしれないと実感する貴重な機会になりました。

ご協力いただいた皆様、ありがとうございました!

プロフィール

  • 町田優衣
  • 早稲田大学法学部4年
  • 大隈塾U-18 代表
  • 大学では、授業運営(大隈塾)や小中学生が参加するキャンプの運営等に携わる傍ら、趣味の野球観戦が高じて球団の演出に興味を持つようになり広島を除く11球団のホーム球場をまわり球団のプロデュースを研究
  • 趣味:野球観戦、寺社仏閣巡り、ハロプロ鑑賞